夫の祖母と敷地内同居をしていました。いつも祖母は私たち家族のことを思いやっていてくれましたが、それがうまく通じていたかというと、まったくそうではありませんでした。
私の気持ちは、祖母には決して悪気はないのだから、良い方に解釈しようと必死で自分を抑えていました。
なぜ祖母の気持ちは通じなかったのか?
祖母は何かと言うと、不安にかられてそれに支配されてしまいました。不安はもともと私たちを心配して生まれたものですが、不安に支配された祖母は通常の祖母とは違っていました。そんなときの祖母には何を言っても無駄で、ただ嵐が過ぎるのを待つしかありませんでした。
どんなときに、祖母は不安にかられるのか?それは、いろいろでした。なるほど仕方がないと思えることもありましたが、正直そこまでは付き合えないと思うことも度々あったのです。
当時は夫の弟が同居していましたが、彼が外泊すると祖母の頭の中では弟は死んだことになってしまいました(死んでしまった、と大声で叫んで泣くのです)。また、夫の帰りが少しでも遅れると、やはりどこかで事故にあったのではないかという不安を抑えることができませんでした。
不安な祖母には何を言っても通じない
もし、夫や夫の弟が死んだとしたら、必ず病院や警察から連絡があるはずです。どこからも連絡がないのは、元気にしている証拠です。それをいくら言っても祖母には通じず、正論を言っている私が冷たい血も涙もない人間だと言うことになってしまうのです。
そうして親族に連絡しろだの、警察に通報しろだのという言葉を何とかかわしながら、夫や弟の帰りを待つということを私は何度もしなくてはなりませんでした。一度は親戚の家に相談に行く、と泣きながら家を飛び出した祖母を追いかけて行ったこともありました。
祖母はとうとう面倒な人になってしまった
最初のうちはこんなに心配しているのだから、と夫や弟に祖母の様子を伝え、なるべく心配をかけないようにしようとしましたが、祖母の不安は次から次へと湧き上がって、とても対応しきれなくなってしまいました。
夫や弟にしてみても、祖母を大切に思う気持ちがあるから一緒に住んでいたわけですが、祖母のために自分の行動を制限されるのはたまらないと思う気持ちの方が大きくなってしまったようです。
祖母の愛情は私や夫、そして弟にとっては面倒なものになってしまったのです。
今ならわかる、祖母の不安の理由
今考えると、祖母は若いときには自分の夫を亡くし、やっと子どもたちが成人して生活が落ち着いたと思ったら、長男(私の夫の父)を30代、長女を40代で亡くしました。本来の性質もあったとは思いますが、この経験で不安にかられやすくなったのでしょう。
私は60代目前になってやっと祖母の気持ちを考えることができるようになりました。そして、改めてかわいそうだったと思っています。しかし、今なら祖母の不安を受け止めてあげられるかというと、それも違います。
今は私も年を重ねて体力と気力が以前よりも一層弱まったようです。祖母の不安をぶつけられたら、いの一番に逃げ出すと思います。
祖母から学んだこと
ただ、愛情から出てことであっても、必ずしもうまく行くとは限らない、このことを学べたことは良かったです。人間はたとえ愛情を持った態度で接したとしても、周りの人たちとうまくやって幸せに暮らしていけるとは限りません。それにはいろいろな理由があるでしょうが、めぐり合わせが悪いことも影響しているのではないでしょうか。
今ここではうまくいかなくても、別のどこかではうまくいくかもしれない。祖母の不安だって、別の人ならこんなに考えてもらってありがたい、と受け取ってくれるかもしれないのです。
めぐり合わせが悪いのであって、決して誰かのせいではないのです。私が孤独な専業主婦であっても、決して周りの人たちが悪いのではありませんが、私が悪いのでもありません。それもこれもみんな、めぐり合わせが悪いだけなのです。こう思えるようになったのは、祖母のおかげかもしれません。