先日、電車内で男が刃物を振り回して、10人の乗客にケガをさせる事件が起きました。この男は20代で、今まで自分は女性から見下されてきた、だから幸せそうな女性を見ると殺したいと思うようになったと供述しているそうです。
本当に不幸なのは自分だけ？
女性から見下されていると感じるのは、男が勝手に感じていることですし、女性を幸せそうだと感じるのも男一人の主観に過ぎません。男は勝手に一人で感じたことを真実だと思い、勝手に殺意を募らせていったことになります。
それでなくても、人間は自分が不幸な状況になったとき、辛いのは自分だけだと思いがちですが、そうではありません。私は自分の父が病気で倒れて働けなくなってしまったときに、自分を不幸だと思っていました。
しかし、私の父と同じ病気で倒れてしまった人を私は数人知っています。わざわざ探したわけではないのに、同じ状況の人に巡り合ったのです。自分だけではないんだ、と気づくことで気持ちはずいぶんと変わります。気づいたことで、不幸からは少しずつ脱しているのだと思います。
自分が置かれた状況（例えば家族が病気やケガをしている、介護が必要な状態だ、家族関係がうまくいかないなど）があまりにも辛いから不幸だと感じることもあるでしょうが、まわりが見えなくなって、自分一人だけが辛い状況にいるのだと思い込んでいることも不幸だと感じる大きな原因になっているはずです。
見下された原因は？
犯人の男がもし本当に女性に見下されていたとしたら、それは男の態度に問題があったのではないかと思います。男は高校卒業後、友人に「ナンパ師」を名乗っていたそうです。
私は「ナンパ師」という名前から、女性を数としてしか考えていない（つまりどれだけ多くの女性をナンパできるかしか考えていない）男の考えが伝わってくるような気がしたのです。
自分を人間以下に扱う男のことを女性が愛情を持って接するはずがありません。別に私はナンパはいけないと言っているのではありません。何人ナンパをしても、それぞれの女性に誠意を持って向き合えるなら、それは素晴らしいことだし、そんな男性のことを女性は見下したりしないと思うのです。
私たちも似たようなことをしているかも
今回の事件は極端な方法ですが、実際の生活でも似たことが起こっているようです。人間は人のことを決めつけたがります。挨拶代わりにこんなことを言ったり、言われたりした経験はないでしょうか。
えっ？ずっとお仕事してないの？子どもももう手がかからなくなったのにね～。余裕があって羨ましいわ。だから、あなた、いつ見ても幸せそうなのね。
言う方に悪気がないのはわかります。それに幸せそうだと言っているのですから、別に腹を立てる筋合いはないような気がします。しかし、すべてが幸せなら気にならない言葉が、少しでも不幸を抱えている人には、引っかかるのではないでしょうか。
目の前の人の深い事情を、私たちはわからないことが多いでしょう。でも、目の前で幸せそうに微笑んでいる人（それも自分が勝手にそう思っているだけかもしれません）が、実は毎日介護で大変な思いをしているかもしれません。育児に行き詰まっていてイライラしているかもしれないし、夫や夫の親との関係に悩んでいるかもしれません。それでも、「幸せそうね」と決めつけられるものでしょうか。
もし自分が辛いのを隠して、普通に振る舞っているとき、「幸せそうね」の一言で傷つくこともあるでしょう。
相手を自分勝手に決めつけることは、暴力になることがあるのです。今回電車内で刃物を振り回した男は、実際に暴力という手段を取りましたが、相手を幸せだと決めつけるだけでも、精神的に傷つけることになるのですから、暴力に変わりはないように思います。
見えない刃物を振るっていないか、私も気をつけたいと思います。
