最近は私より年上の方もみんなスマホを使っています。私がスマホを持ち出したのは2年ほど前ですが、そのとき近所のお年寄りの皆さんはすでにスマホを使っていたのを覚えています。
母の最初で最後の携帯電話
実家の母が携帯電話を持ったのは、亡くなる直前のことでした。入院しているとき、どうしても娘に伝えたいことがあるけれど、公衆電話まで行けないと訴えることが増えました。最初は看護師さんが代わりに電話をしてくれましたが、その回数が増えたために、弟が携帯電話を用意したのです。
母は携帯電話もパソコンも大嫌い、と言ってはばからない人でした。とにかく新しいものを使うまでがとても嫌なようで、実際に使ってしまえばどうってことはなかった、そんなことが何回もありました。当時すでに弟はスマホを使っていたのですが、母の抵抗感が少しでも薄れるように用意したのはガラケーでした。
案の定、母は携帯電話は使えないと激しく抵抗したのですが、弟が実家の番号と私の自宅の番号を登録して、「ここを押せばうち、こっちを押せば姉貴の家だからね」と教え込んだのです。そのとき、すでに母は通常の状態ではなく(せん妄と言われる状態だったと思います)、果たして電話などかけられるのかと思っていました。
意外と母は携帯電話を使えた
私の思いに反して、母は携帯電話を使って電話をかけてくるようになりました。〇〇が足りないから持ってきてくれ、というような内容の電話なら良かったのですが、母の電話の内容はすぐに「私は捕まって監禁されているの」とか「得体のしれない薬物を点滴されているの、助けて」というものに変わっていきました。
そこまでのことを言うなら、電話の操作もできないような気がしますが、それは間違わなかったので、私は母の電話が恐ろしいと思うとともに、そんな状態でも電話ができる母にちょっと感心しました。けれど感心したのもつかの間で、段々母の電話はエスカレートしていきました。「こんなに言っているのに、助けてくれないお前は人でなしだ!」などと電話の度に罵られるようになったのです。
終いに母は警察に電話すると言い出しました。まさかと思っていたら、本当に電話してしまったそうです。警察も通報されたら、それを放っておくわけにもいかず、病院に来てしまいました。ただでさえ忙しい看護師さんにさらに迷惑をかけることになってしまいました。
携帯電話を取り上げられた母にホッとした
警察騒ぎをきっかけに看護師さんは「そろそろ電話はしまっても良いですかね?」と言い、私も了承しました。実は母が携帯電話を使うようになってから、家で電話がなるととても嫌でした。また、何を言われるのだろうと身構えてしまったのです。
母からの電話でなければ病院からの知らせに違いなく、とてもストレスになりました。母からの電話がなくなるだけで、私のストレスは半減したため、少しホッとすることができました。その後1ヶ月ほどで母は亡くなりましたが、亡くなった後も電話がなるとビクッとしてしまうことがかなり長い間続いたのを覚えています。
今、お年寄りがスマホを使いこなしているのを見ると、反射的に母のことを思い出し、ちょっと苦しい気持ちになります。私は独身時代にコールセンターで働いていたので、電話が苦手などと考えたこともありませんでしたが、今はかなり電話は苦手になっています。しかし、最近は通話をすることもめっきり減りました。それでも生活ができる時代になっているわけですから、ありがたいですね。