中学2年生のとき、家庭科でりんごの皮むきをしたことがありました。父が倒れてから、母の代わりに料理をすることが増えたために、私はなんとか皮むきをこなすことができました。
私に声をかけてくれた人
皮むきをして最後にりんごでうさぎを作りました(あの皮を耳の形に残したものです)。そのとき西野さんという同級生が話しかけてきたのです。西野さんとは別に仲が良かったわけではありませんが、私の皮むきを見て上手だね、と声をかけてくれました。
西野さんはお母さんを病気で亡くしたばかりで、私に急に家事をやらなくてはならなくなって悪戦苦闘していることを話してくれました。彼女は自分が作ったりんごのうさぎを見ながら、お母さんがやるとキレイでかわいいうさぎになるのに、私がやるとガタガタでかわいくない…、お母さんがどんなに大変だったか、どんなにすごかったかよくわかった、と言っていました。そして私に向かってこう言いました。
ゆみこねこの家も、お父さんが病気になって、大変だったよね。家族が病気になるってそれだけで、すごく心が苦しくなるよね。
それまでの西野さんはニヤニヤしながらいたずらをしたり、人をからかったりするので、私はあまり本気で話したことがありませんでした。でも、目の前にいる西野さんはすっかり変わったように思え、びっくりしました。
私は何も言えなかった
西野さんとそんな話をしたのはそのときが最初で最後でした。彼女のお母さんは長崎県の出身で、夏の暑い日に家の庭で遊んでいたら、大きなきのこ雲を見たと話していたそうです。西野さんはそれとお母さんの病気が関係あるのかもしれないと思う、と話していたのを私はよく覚えています。
私は結局励ますようなことは何も言えませんでした。我が家も大変でしたが、父は命をとりとめ、西野さんのお母さんは亡くなってしまいました。そこには明らかな違いがありました。私には何を言えばよいのか、見当も付きませんでしたが、一生懸命、りんごの皮むきくらいならすぐに慣れるよ、私も最初は大変だったんだと言いました。西野さんがどう答えてくれたのか、私にはもう思い出せません(40年以上前のことですから)。
今年も8月が来て、思い出した
今年も8月になったのでこんなことを思い出したのかもしれません。西野さんは今どうしているのでしょう。彼女がこの時期を心穏やかに過ごしていてくれれば、と思います。人と人が一瞬かすった程度のことですが、これもまた私にとっては忘れられない思い出です。
どんな人でも悲しいことや辛いことを経験します。でも、それによって変わることもできるのだと私は14歳で教わったような気がします。
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